私の勤務する早稲田大学の周辺で昼食を取ろうとすると結構苦労する。というのも店の主たるターゲットが学生のことが多く、価格は500円から700円とリーズナブルだが、店構えとか内装、雰囲気でいうと入るのを少し躊躇する。さらに誤解を恐れずに言ってしまえば、味より量の店が多いのだ。さらに、そうした店で1時間腰を落ち着けるのも無理だ、というのも店側が単価が低いことを回転率を上げることで補っているからだ。
一方で、これまで働いていた大手町・丸の内、赤坂、青山などでは、しゃれたインテリアで、味も結構いけるランチが1000円から1500円くらいで味わえる。しかも1時間居座っても文句を言われることはない。しかし、早稲田近辺にはそうした店はきわめて少ない。というのも、そもそもそうした価格帯の顧客層は絶対数が少ないのである。
学生に聞くと昼飯に出せる金額は700円止まりで、それ以上になると特別なときにしか行けないという。普段は定食屋、弁当屋、コンビニ、学食などが主な行き先になるそうだ。私は食い物にそれほどこだわらない方ではあるが、さすがに学生が主体の店は入りにくい。しかし、マーケティングの観点からは、店の方はそれでよいのである。要するにターゲットでない顧客層は来てもらわなくても良い、あるいは満足してもらわなくても良いのだ。これを顧客の選別とも言う。
実は表題の「ある日の午後の喫茶店風景」というのは、私が20数年前に慶應ビジネススクールに入学したときに、恩師の嶋口先生からマーケティングを習ったときの、セグメンテーションに関するケースのタイトルである。
未だに、自分の中に鮮明に残っているために、昼飯を食べるときにもこんなことを考えてしまう。
このケースから学んだことは、「マーケティングで大事なことは、ターゲット顧客層と自分たちが提供する商品やサービスのマーケティングミックスとの整合性がとれていることである。」だ。早稲田近辺では、学生が主たるターゲットとなるので、価格は高くても700円、雰囲気よりも早さと量、さらにどちらかといえば腹持ちのするメニューと言うことになる。
成功しているブランドは、こうしたターゲットセグメントとマーケティングミックスの整合性がとれている。飛躍した例ではあるが、ルイ・ヴィトンなどが典型である。
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「ある日の午後の喫茶店風景」のケースは、KBSで現在も使われています!私は嶋口先生ではなく、余田先生から教わりましたが、一番最初のケースということで今でも印象深く覚えています。
ルイ・ヴィトンのブランド戦略は、商品/プライス/店舗という消費者とのコンタクトポイントのバランスが絶妙だと思います。1997年にクロージングを発表し、バッグブランドからファッションブランドへとシフトしましたが、その後、著名建築家を起用したメガストア展開など、LVMHグループの磐石な資金力を背景にラグジュアリーブランドとしてのブランド価値創出を継続し続けているように感じます。48,000円というアクセシブルなバッグを購入しても、商品は上質な箱とショッピングバッグに梱包されており、ショップの出口まで販売員に見送って貰い、『またのお越しを・・・』と超高級商品を購入した上顧客のような扱いを受けることにより、消費者はブランドに対するコミットメントを醸造していますが、顧客を魅了し続けるための多大な投資が、いつかネガティブスパイラルに変わるのではないかと一抹の不安も感じます。LVはブランドコングロマリット経営での成功例ではありますが。
ぴのさんへ
そうですが、余田先生が引き継いでやってくれているのですね。とてもうれしいです。とても短いけれど、良いケースですよね。だからロングセラーなのでしょう。
義堂さんへ
LVはどこかで天井が来ると言われながらも、これまでずっと成長が続いていますね。前社長の秦さんが退任された後がどうなるか、気になるところですね。
LVMH全体では、日本よりはアメリカ、中国、その他アジアに力をシフトさせているような気がします。