内田が定義する異業種格闘技の定義は以下のようになる
異業種格闘技とは
l 異なる事業構造を持つ企業が
l 異なるルールで
l 同じ顧客ないし市場を
奪い合う競争である
CDと音楽配信を例に取ってみてみよう。
従来の音楽産業は、CD(元々はレコード)を製作・販売するレコード会社が一方の雄であり、他方そのCDを再生して聞くためのオーディオ機器を製造・販売する企業(AV機器業界)は全く別物として存在した。前者の代表例がソニーレコードやavexであり、後者の代表例がステレオやウォークマン、ディスクマンを作って売っているソニー、松下、ケンウッドなどである。一方はヒット曲とミュージシャンという人に依存したサービス業的色彩が強い企業ではあり、片方は全く人に依存しない物理的製品を作っている典型的なメーカーであり、ルールも成功のカギも大きく異なる業界であった。両者はCDがたくさん売れればハードも売れるという正の相関はあったかも知れないが、どちらかという無風状態で、競合することは皆無であった。
ところがこれまでCDという物理的な製品を介さざるを得なかった音楽を通信回線を使って送ることが出来るようになり、ビジネスはすっかり変わってしまった。まずレコード会社は自社のもっている販売チャネルや、レコード店などが場合によってはいらなくなってしまうおそれが生じ、さらには音楽配信が進めばCDそのものの売上が減るのではないかというおそれさえ抱くようになった。一方でAV機器業界はやや複雑なレスポンスをした。CDが売れなくなると、それをベースにしたオーディオ機器が売れなくなるのではないかと懸念して、音楽配信を積極的に推進しなかったメーカーもあれば、アップルのように千載一遇のチャンスとばかりに、iPodという携帯音楽プレーヤーばかりではなく、iTunes Music Storeという音楽配信の専門会社まで作ってしまったところもある。これによって、価格決定権はレコード会社からアップルに移ってしまったと言えるくらいの大変化が起きた。さらには、今まで店頭では滅多に売れない音楽までネットであれば売れるというロングテール現象まで生じるに至って、販売のイニシアチブはレコード会社よりネット販売会社に移ってしまったと言えるかも知れない。ここでは、メーカー(アップル)とレコード会社が同じエンドユーザーを取り合っているのである。要するに、レコード会社もハードメーカーも消費者に曲を売っていくら儲かるかという同じビジネスの土俵に上がることになってしまったのである。
さらに、この市場に携帯電話会社が入り込んでくるために、異業種格闘技の度合いはさらに高まると思われれるが、それは別の機会に語ることにする。
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こんにちは。
大分前の記事にコメントしてすみません。
異業種格闘技に関して質問です。
色々考えてみて、二つ知りたいことがあります。
①多角化:
バブル時期に流行った「多角化」と「異業種格闘技」との違いは何でしょうか。
たとえば、バブルの時期に不動産と関係ない会社が、不動産を買うのが流行りましたが、それも異業種格闘技でしょうか?
定義の中に「異なる事業構造を持つ」とあるので、(1)異業種がメイン事業であれば、異業種格闘技でしょうか。それともそれに加えて、(2)対象となっているビジネス自体(上の例では不動産)で、既存企業と事業構造を異ならせる必要がありますでしょうか。
②黒船来襲:
上記の質問とリンクしますが、「黒船来襲」のケースが一番分かりやすいので、黒船来襲のケースで考えると、たとえばリッツカールトンは、バリューチェーンは変えていませんが(「追加」と見ることもできるかもしれません)、価値曲線を引くと、既存の日本ホテルと全然違うはずです。
とはいえ、「事業構造が異なる」とまでは言えないと思いますが、こんなケースは「異業種格闘技」には当たらないのでしょうか。
例出しをしていて、異業種格闘技に当たるのかどうか分からなくなって、若干混乱していますので教えて下さい。宜しくお願いします。
異業種格闘家さんへ
コメントありがとうございます。
1つ目の質問への答えですが、多角化と異業種格闘技とは異なるコンセプトです。ただし、多角化した先の事業で、その業界のこれまでのビジネスモデルと異なる戦いをすれば、それは異業種格闘技と言えます。
たとえば、良好代理店のHISが航空業界に参入してJALやANAと同じビジネスモデルで事業展開すれば、単なる多角化です。ところが実際には、低価格で稼ぐモデルを狙ったわけですから、異業種格闘技になります。
したがって、いくら不動産事業を展開しても、従来の不動産事業と同じモデルをやっているカギに異業種格闘技とは呼べません。
②リッツカールトンは、価格が高くてサービスレベルが高いだけでこれまでのホテルと何ら異なるサービスを提供していませんので異業種格闘技とは言えません。黒船で異業種格闘技と言えるのは、これまでの業界常識をぶち破るようなビジネスモデルを展開する場合です。日本の小規模分散なおもちゃ業界を根本からひっくり返したトイザらスが典型例です