ブログ

CVS銀行(続き)

とりあえず、成田からNYへの飛行機の中で書いたものアップしておきます。

今朝10日の日経新聞に三菱東京UFJ銀行が3月19日よりコンビニでのATM手数料を無料にする記事が出ていた。今頃という感じもするが、昨今のコンビニATMの隆盛を見ると当然の動きであろう。1月5日の「セブン銀行は銀行か?」のところでも書いたが、最近の若者は銀行ATMより遙かにCVSのATMを私用する。これにより、三菱UJF銀行の手数料減は50億円程度になると記事には出ていたが、これは元々銀行がCVSに払っていた手数料を顧客から徴収するか、自社のコストで吸収するかの問題であった。自行に顧客をつなぎ止めるためにはこれくらいの出費は致し方ないと考えたのであろう。

私は、講演をしたり、講義をしたりするときに参加者を相手に簡単な調査をすることがよくある。たとえば異業種格闘技の講演では、参加者に自分の預金口座からお金をおろすときに主にどこのATMを使っておろしますかと聞いてみる。もちろん大半の人は両方使っているとは思うが、主に使う方はどちらかと無理やり一つの答えを選んでもらうのである。すると世代によってものの見事に答えが変わる。たとえば企業主催の講演のように比較的年代の高いビジネスマンの場合は、だいたい8-9割の人が銀行のATM(もちろん無人店舗を含む)で下ろす。これが、早稲田大学の学部生(3~4年生)になると9割がCVSである。一方で、ビジネススクールのように20代後半から30代までになると、約半々となる。といった具合に大変おもしろ結果となる。
もちろん、サンプル数が100-200程度で、かつ挙手による調査で精度はいい加減であるが、世代別のATM利用動向はある程度つかめていると思う。

これは既存の銀行から見ると結構頭の痛い問題で、単なる手数料を誰が負担するかという問題ではない。かつて松下電器が自社の系列店で家電製品を売っていたのが、最近はヤマダ電機やヨドバシカメラのような量販店を無視してはビジネスが成り立たなくなったのと似た問題である。銀行もこれまでは商品開発から、決済(トランザクション)、ITシステム、資金運用、調達、店舗網まですべて自前で持っていた。そして、その規模がある程度利益率を規定していた総合力の時代から、明らかに商品力やサービスのレベルとそれを流通させるチャネル力(ここではATM網としておく)が別の要素になる時代へのシフトしつつある。
そうなると、優れた商品や高いサービスを持った金融機関が店舗網を自前で持たなくても、大きく成長することが可能になる。新生銀行、シティバンク、あるいはソニーバンクなどがその代表例であろう。一方で、チャネルの力に頼って、商品はどこの商品でも良いというタイプの金融機関も現れる。それがセブン銀行である。既存のメガバンクがその狭間で溺れないように心配しているのは私だけであろうか。

かつて、アメリカのフィデリティという投信会社が、世の中で一番競争力のある商品さえ持っていれば誰かが売ってくれるはずだと考えた。一方で証券会社のチャールズシュワブは、顧客さえしっかりつかまえていれば金融商品を持つ会社は我が社のチャネルを使わざるを得ないはずだと考えたいう話を思い出す。蛇足だが、最も優れた商品とは投資信託の場合は実績すなわちリターンが高いことを意味し、顧客をしっかりつかまえるためにはコスト、サービス品質(正確さなど)、スピードの3つが重要とシュワブは考えたという。

関連記事

  1. 異業種格闘技の起きやすい業界(5)の続き
  2. 韓国語版
  3. 異業種格闘技の起きやすい業界(4)
  4. あればいいな、こんなサービス
  5. バリューチェーンで見る(5)
  6. 異業種格闘技を仕掛けるのは誰か
  7. ウィンドウズ・ライブ
  8. 100の引き出し

コメント

    • JS
    • 2007年 3月 12日

    内田先生こんにちは。
    私は某ビジネススクールに銀行から派遣され、先日そのスクールで行われた先生の講演を聴いていたものです。
    私は、日本の大手銀行がセブン銀行・ネットバンク・新生銀行など新しいタイプの銀行・電子マネーの普及・・等々を「ライバル」ではなく「単なる異質なもの」としか捉えておらず、ほぼ無視をしている結果、だんだん銀行の事業基盤が奪われつつあることに問題意識を持っております。
    これを卒論テーマの核として、今の銀行経営者に新しい視点での提言をしたいと考えているところです。
    先日の講演や今回のブログを拝見し、今後も内田先生のお話を是非伺っていきたいと思いました。ありがとうございました。

    • 内田和成
    • 2007年 3月 12日

    JSさんへ
    既存のパラダイムにとらわれていると、新たな競争相手が現れたときに、それは全く別物で我々のビジネスの脅威にはならないと思いがちです。
    昔、レーザーディスクカラオケがマーケットリーダーだったときに、通信カラオケが登場しましたが、通信カラオケでは動画が送れないか、送れてもクオリティが劣るために当面競争相手にならないと考えているうちにマーケットを席捲されてしまった例があります。
    そうかといって、すべの異質な動きに全面的に対応するわけにも行かないのが、既存のビッグプレーヤーの難しいところでしょう。
    卒論のテーマおもしろそうですね、機会があれば是非道中議論を仕掛けてください。
    こうした脅威が起きていることが分からずに手を打ちそこなうのと、分かっているが対抗できないのとどちらが罪が重いかは議論の分かれるところかもしれません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

RSS 内田和成のビジネスマインド

  • BCGのコンセプト紹介の本を書きました 2016年11月3日
    今年2016年は、BCGが東京に世界で2番目のオフィスを1966年に開設してから...
  • 事業アイデアの発想法 2016年10月28日
    今日はビジネススクールの内田ゼミにBCG時代の同僚で現在事業開発のコンサルタント...
  • 学部7期生 2016年7月8日
    今日の合同ゼミには学部7期の卒業生の中澤君と薬丸さんも顔を出してくれました。明日...
  • ゼミ合宿 2016年7月8日
    今日は内田ゼミのMBA生と学部生の合同ゼミ初日です。例年土日の一泊二日でやるので...
  • 模擬授業のお知らせ 2016年7月6日
    来る7月24日(日)の午後、早稲田大学ビジネススクールでは2017年度の入試説明...
PAGE TOP
%d人のブロガーが「いいね」をつけました。