昨日早稲田大学IT戦略研究所主催の講演会があり、「仮説思考と戦略思考」というタイトルで講演してきた。もう一人の講師は昔からよく知っている元セブンイレブンのCIOで現フューチャーアーキテクト副社長の碓井誠さんだったので大変楽しい講演会になった。また聴衆にも知っている顔がたくさんいたので、こちらも講演後に懐かしく意見交換した。
私はすべての情報を集めてから結論を出すとか報告書をまとめようとすると情報洪水に溺れてしまい、仕事の効率が悪すぎるという話をした。要するに仮説思考の重要性を説き、網羅思考を戒めたわけであるが、この講演会の会場で最後に日本ユニシスの佐伯常務からいただいた質問が大変ユニークであったので皆さんにも紹介する。
要約すると人間が仕事をするのに網羅思考は効率が悪く仮説思考が優れているというのはよく分かった。では網羅思考、すなわちしらみつぶしに調べる、が得意なコンピュータが進化すると、人間の直感や仮説にコンピュータの方が勝つことになるのではないかという質問であった。とてもおもしろ問いだ。
私は人間の直感・勘が勝つと信じたいと答えたが、一方で気になることもある。実は、先月(3月21日)、将棋のプロ棋士*渡辺竜王とコンピュータ将棋の世界チャンピオンが対戦するというイベントがあった。もっと人間の楽勝かと思ったら結構コンピュータが強かったというのでマスコミでも話題になったが、その時に私が驚いたのがコンピュータは1秒間に400万手も読むことが出来るという点だった。いくら人間の直感が優れていると言ってもこれだけ徹底的に網羅思考で来られたときに、人間はどう振る舞うべきなのかというのは結構難しいなと思った。
当日の司会役の根来先生は上記の質問に、コンピュータはすでにフレームワークが出来ている中で思考したり、計算したりするのは得意だが、全く新しいものは苦手だと答えていたがそれも一つの答えである。しかし、人間が普段従事している仕事はそんなにクリエイティブな仕事ばかりではないと思うので、普通のホワイトカラーに残された仕事がどんなふうになっていくのか大変興味がある。
この問題に関する皆さんの意見を是非聞かせてください。
おまけ
*:"ぷろきし"と入力したらまず"プロキシ"と変換されたのに驚いた、プロ棋士という言葉よりコンピュータ用語のプロキシが先に出てくるなんて・・・。プロキシを知らない人はこの話は忘れてください。それくらいマイナーな言葉です。
この記事へのトラックバックはありません。
まず、コンピューター棋士に対して、人間の棋士がどう振舞うべきか?という問いについては、
「こうやって勝つ」という意思をもって勝負することではないか思います。
コンピュータはその局面ごとの最適解を出すことによって、勝負に勝つことができます。すなわち将棋というルールをモデル化し、部分最適の解を積み重ねることによって勝利するというものです。
しかし、人間が「こうやって勝つ」という思いを持って臨む場合、たとえば「肉を切らせて骨を絶つ」ような戦略で臨む場合には、その「思い」はモデル化することはできず、人間にチャンスが生まれるのだと思います。
ただし、勝負に勝てるかどうかということになると、人間の勝負にはミスがつき物なので、勝率の面では極めて厳しくなるでしょう。
これからのホワイトカラーの仕事については、難しい問題ですね。人間の仕事をコンピューターに任せられる形にモデル化する能力、これがひとつの付加価値でしょう。それ以外では、確かに人間が必要とされるクリエイティブな仕事はすくないと思います。ただ、判断が必要な仕事がなくなることはありません。その判断をこれまでよりも精度高く行うことが、ホワイトカラーの仕事になりますし、そこに人材がより多く投入されるのではないでしょうか。それでも、必要とされるホワイトカラーの労働力は少なくなると思いますが。
A2さんへ
コンピュータに勝つための要素に人間の意思をあげているのは大賛成です。成功していき業の経営者には通常強い意志が感じられます。もちろん強い意志を持っていたからと行って成功するとは限りませんが、意志がない経営者に名経営者はいません。
オペレーションワークであろうと、判断業務が必要なことは間違いないので、人間の仕事がコンピュータに置き換えられることはそうないとは思いますが、ルーティン業務がコンピュータに置き換えられていったときに残る仕事だけで一日8時間分の仕事が残るのかどうかは分かりません。