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バリューチェーンで見る(2)

2)業界を超えて起こる異業種格闘技の予測
異業種格闘技を見る上で、バリューチェーンが重要な理由の2つ目は、自社に閉じたバリューチェーンだけでなく、川上の部品・素材メーカーから、流通を通して消費者にまで到達する全体バリューチェーンを描くことで、業界を超えて起こりうる異業種格闘技の脅威やビジネスチャンスを把握することが可能になることがあげられる。

たとえば昔ナガオカというレコード針の優良企業が存在した。いくらナガオカが素晴らしいレコード針を作り続けたとしても、音楽を聴く手段がレコードからCDに変わってしまえば、レコードプレーヤが不要になる。そうなると当然ながらレコード針もいらなくなってしまう。したがって、レコード針あるいはレコードプレーヤー業界という狭い業界を見るだけでは不十分であり、音楽を聴くという行為全体をバリューチェーンで見ることが重要なのである。
具体的にはミュージシャンの音楽がどういう形で消費者まで届き、そのときに用意される容れ物はどのようになるかを理解することである。
バリューチェーンに落とせば、音楽(ミュージシャン)→編集(レコード会社)→製作(ハード)→マーケティング→流通→消費者という価値連鎖をしっかり捉えることになる。レコードからCDに変わればレコードプレーヤーがCDプレーヤーに変わる。
また音楽がデジタル化されるという側面に注目すれば、今度はレコードやCDという物理的な製品を必要としなくなるので、ネットワークを通じて音楽の流通・販売が可能になる。そうなれば、レコードメーカーのあり方が変わるだけでなくレコード店という流通網が大きく変わることが容易に理解できる。

同じような話は最近話題のテレビでも起こりうる。プラズマテレビの部品を作っているメーカーは薄型テレビの覇者が液晶になれば、ビジネスを失いかねない。もちろん、逆もまた真なりである。部品の供給先としてのテレビメーカーだけを見ていてもダメなのである。あるいはビデオデッキを作っていた業界にはもっと大きな試練が発生している。今までのテープに変わってハードディスクに録画する方法が主流になると、テープもDVDも媒体そのものが必要なくなってしまう。そうなるとわざわざ、デッキなど買わなくてもテレビに内蔵してしまえという話になるか、パソコンのハードディスクに録画しておけばいいという話になりかねない。さらにテレビ受像機そのものが、PCで十分と言うことになってしまえば、テレビメーカーは作るものがなくなってしまう。
もちろんハードディスクに録画したものをメディアにコピーして保存したり、他人に渡す、あるいは自宅のリビングで大型の薄型テレビで迫力ある映像を楽しむなどの需要は残るので、事業がなくなってしまうことはないと思うが、異業種格闘技になることは避けられない。

次回はカメラ業界のバリューチェーンを実際に書いてみることで、カメラ事業に起きている異業種格闘技を解説してみる。

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コメント

  1. 内田 様
    お世話になっております。株式会社ムービンの西田と申します。
    先日は、弊社神川宛にblogをご紹介くださり、誠にありがとうございました。
    早速弊社HPにて、ご紹介させていただきました。
    http://www.movin.co.jp/consulinfo/blog/blog.php
    ご都合が悪い点がございましたら、修正・削除等の対応させていただきますので、ご一報いただければ幸いです。
    取り急ぎご連絡のみで失礼いたします。
    今後とも何卒、よろしくお願いいたします。
    株式会社ムービン
    西田 和雅

    • 内田和成
    • 2007年 2月 13日

    西田さんへ
    貴社ホームページでのご紹介ありがとうございます。内容拝見しました。全く問題ございませんのでこのままで結構です。ありがとうございます。
    神川さんへよろしくお伝えください。

    • 名無し
    • 2007年 2月 13日

    こんにちは
    バリューチェーンについて大変興味深く読ませていただいています。
    先日の記事では、
    >自社の機能のうちのどの部分が異業種からの攻撃を受けたり、脆弱であるかを理解するためである。あるいは自社がよりよいサービスや機能を提供できる可能性がある機能(パーツ)を見つけ出すためである。
    とご紹介されていましたが、自社や自業界の「慣習」や「仕方が無いこと」「コスト」などの常識枠に捉われてしまい、折角バリューチェーンを描いても、どの機能(パーツ)が「弱い」とか「チャンスがある」とか果たして見つけ出すことができるのかどうか自信がありません。
    どのような視点をもって機能(パーツ)を見ていけば良いかご教示頂ければ幸いです

    • 内田和成
    • 2007年 2月 14日

    Aさんへ
    バリューチェーンの話にコメントありがとうございます。自社のVCを見るときに、どうしても過去のしがらみや自社wayに縛られてしまう話、その通りです。難しいですよね。
    自社のパラダイムに囚われないためには、
    1)素人や新人の考えを素直に聞く
    2)社内で異端児と呼ばれている人の意見を聞く(社内では非常識でも、世間では常識かも知れない)
    3)外部の人の声に耳を傾ける
    ・顧客、コンサルタント、異業種
    4)別の世界の専門家の話を聞いてみる
    などがあります。
    また、自社の機能の内の強み・弱みを捉えるためには全く違う業界のVCを書いてみて、そこからのアナロジー(類似性の比較)で考えるという方法をお勧めします。

    • k626
    • 2007年 2月 15日

    異業種格闘技の時代になりますと、全体バリューチェーン上のある特定のプレイヤーだけが競争にさらされるのではなくて、上流から下流まで一気に構造変化が起きそうで怖いですね。テレビにまつわるバリューチェーンは、さしずめこんなところでしょうか。
    コンテンツ(プロダクション)⇒番組(製作会社)⇒放送(テレビ局)⇒受信(テレビ)⇒マーケティング⇒流通⇒視聴者
    このバリューチェーンの中で一番困っているのはテレビメーカーだと思います。今までプラズマと液晶で争って来ましたが(海外ではリアプロも巨大勢力であります)、最近では「ちょいテレ」という商品が市場でバカ受けしています。
    http://buffalo.jp/products/catalog/multimedia/dh-one_u2/index.html
    このちょいテレ、画質や表示画面はテレビに劣るものの、ワンセグ対応ですから移動中でもテレビが見れますし録画も可能。面倒な配線設定もなくパソコンのUSBに差し込むだけでOK。この商品の怖いところは、潜在的にあった「テレビ番組は暇つぶしに見れればいい」「情報収集のために確認できればいい」というニーズを顕在化してしまったことでしょう。流行のフレームワークを使うのは好きではありませんが、やはりこれはInnovator's Dilemmaではないでしょうか。高機能、高画質競争の果てが「ちょいテレ」に持って行かれたら泣くに泣けないですね。
    川上かと思われていたテレビ局も、最近では視聴率の悪化に相当苦しんでいるらしく、特に若い人はテレビを見ないそうです。そうした危機感がインターネット連動型の番組を多発させることになるのだとか。川下のテレビ受像機の方も、ネット対応は当たり前になりましたね。どの業界も、安心していられない過酷な時代になったようです。

    • 内田和成
    • 2007年 2月 16日

    k626さんへ
    その通りですね。川上と川下の両方で起きる変化の方が自分の業界で起きる変化よりよほど怖いと思います。
    個人的にはワンセグ携帯がなぜ普及しなくて、PC用USBワンセグチューナーが品切れになるくらい売れる理由が分からなかったのですが、もしかしたら顧客層が違うのかも知れませんね。仮説としては、ワンセグチューナーを買う層の方が、携帯のヘビーユーザー(すなわち若者)よりかなり年齢層が高いのではないかと考えますが、いかがでしょうか?

    • k626
    • 2007年 2月 25日

    ご返答、遅くなりました。まずワンセグ携帯が本当に普及していないのかどうかの事実関係ですが、報道によると、ワンセグ携帯は売れてはいるが伸び率が鈍化し、今ではワンセグチューナーに逆転された、ということのようです。
    http://bcnranking.jp/flash/09-00012228.html
    また「日経マーケットアクセス」の記事によれば、ワンセグ携帯の普及を阻むのネガティブな要因としては、
    1.端末の価格が高い,
    2.テレビ番組を視聴するにはバッテリー駆動時間が短い,
    3.端末が大きい,
    4.現状では固定受信用テレビ向け番組と同じ番組を放送するサイマル放送であり,ワンセグでないと視聴できない番組がまだない
    http://consult.nikkeibp.co.jp/consult/market-news/contents/column/column8-3.html
    と分析されていますね。
    gooリサーチによれば、ワンセグの利用意向が60.2%と非常に高いことを考えますと、上記の記事と考え合わせれば「ワンセグサービスは利用してみたいけれど、そのデバイスとして携帯は高いし、重いし、バッテリーが切れるから今はいらない」というユーザー心理が読み取れます。
    http://research.goo.ne.jp/Result/000334/
    一方ワンセグチューナーの場合、価格は1万円そこそこが主要価格帯ですので、ワンセグ携帯に比べて安いため、ワンセグエントリーモデルとして好感されているようですね。これらを総合するとワンセグチューナーヒットの理由は、もともと消費者の中にワンセグ利用意向は強くあったものの、それを実現するデバイスとして携帯は高い・重い・バッテリーが切れるなど商品力が弱く購入する気になれなかったが、ワンセグチューナーなら価格も安く手軽に利用できるため消費者が飛びついた、ということでしょうか。
    http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20061212/onetuner.htm
    内田先生のご指摘である「ワンセグチューナーを買う層の方が、携帯のヘビーユーザー(すなわち若者)よりかなり年齢層が高いのではないかと考えます」はその通りだと思います。ワンセグチューナー購入者のデモグラフィック分析がないので正確なことは分かりませんが、「購入層は発売時から変わりなく、20~40代のサラリーマンっぽい人が多いです」というコメントを見つけました。学生にとって携帯はメールや通話といったコミュニケーションのための道具であって、そこにテレビ視聴という機能を強く求めてはいないのでしょう。
    http://www.watch.impress.co.jp/AKIBA/hotline/20061223/etc_shopwatch.html

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