さて、昨日の決勝戦の総括の続きである。実は、ワールドカップの始まる直前にNHKでサッカー日本代表チームの特集をシリーズでやっていた。その中の一つに日本がなぜメキシコオリンピックで銅メダルを獲得できたのかという話を取り上げており、大変興味深かった。
もともとこの話をしたいと思ったのが、関連する話として取り上げた決勝戦の話が長くなって、本論が書けなくなってしまったので、今日別項で取り上げる。
若い人は知らないと思うが、当時の日本代表はお世辞にも世界に通用するレベルではなく、オリンピックも出るのがやっただった。その日本がメキシコオリンピックで活躍を出来たのは不世出のストライカーでメキシコオリンピック得点王に輝いた釜本邦茂によることはよく知られている。当時、高校生だった私も釜本が天才だったので、銅メダルを取れたと信じていた。
ちなみに私は当時のイレブンの大半の名前がそらで言えるほど良く覚えている。それほどの輝く存在だったのである。とりわけ大好きだったのが宮本輝紀というミッドフィルダーだった。
さて本題である。ヨーロッパや南米に比べてはるかに遅れていた日本サッカー界に近代的な指導方法を持ち込んで変身させたのはドイツ人コーチのクラマーさんであることはよく知られている。
そのクラマーさんが一目惚れしたのが釜本である。何とか彼のストライカーとしての能力を活かしたい。そう考えたクラマー氏と日本のコーチ陣が目をつけたのが杉山隆一である。当時は現在のサイドバックというポジションがなく、ウィングという名前で呼ばれていたが、左サイドを駆け上がっていって、中央にセンタリングするのが仕事である。この杉山が俊足で駆け上がっていって、中央にいる釜本がシュートをするというのが日本の勝ちパターンであった。メキシコオリンピックだけでなく、日本代表戦でも何度となくこの形で得点を重ねていた。
それを見ていた私は釜本と杉山ってすごいなと思っていたわけである。ところが今回NHKの特集を見て驚いた。これは単に彼らの才能だけでなく、日本チームの総力を挙げての戦略の産物だったのである。というのも、杉山が突破していく先にはスペースがないといけない。それは当たり前であるが、そのために日本チームは杉山の前には誰も出るな、必ず場所を空けておけと指示したそうである。もちろん、敵はいるわけであるが、味方がいれば余計そこへ敵がいる可能性が高くなる。そのため少しでも空いているスペースを作るために、杉山の前には誰も出るなと指示を徹底したそうである。これでは、日本の攻撃のパターンが限られてしまって、それをつぶされたら終わりと思うが、それでもこの二人にチームの命運を託した戦略が立てられた。この二人だけが世界に通用する技術であり、攻撃力だったわけである。
こうして戦略を立てた上で、杉山と釜本には合宿所で、二人だけの居残り特訓をさせて、とにかく杉山からクロスをあげさせ、それを釜本がシュートに持って行く。そればかり、練習したという。通常の練習が済んだ後に二人だけの練習と言うから、さぞきつかったであろうと想像がつく。二人の間でも、ボールが遅いとか、正確でないとか、もっと足下に出せとか、そんなことが出来るわけがない、おまえやって見ろと言った激しいやりとりがあったという。そうした結果、二人の絶妙のコンビネーションが誕生し、実際に試合で活かされたことが銅メダルにつながったという。
ここで言いたいことは、世界で通用するにはもちろん個人レベルでの高い技術、ここでは釜本の得点能力、が必要であるが、それを支えるチーム戦術があって初めて個が生きるわけである。
そういう意味で、この釜本と杉山のコンビは作られた勝ちパターンであり、戦略の賜物であったということが出来る。
同様にスペインも「パスを回して、回して、一瞬のチャンスにスピードアップし、敵陣に切り込んでいく」という勝ちパターンが明確だったと思える今回の優勝だった。もう少し、細かいことを言えば、普段のパス回しは一人の選手がボールに2回以上触る(ツータッチ)なのに対して、ギアが入ったときはほとんどワンタッチでボールを回していくという、見ていて本当に美しいと思えるサッカーを展開していたい。準決勝のドイツが突然借りてきた猫のようになってしまったのが、まさにこの戦略にはまってしまった好例である。
企業でもまったく同様である。勝ちパターンというものを持っている企業は強い。たとえば自動車業界を例に取れば、トヨタであればカンバン方式であり、スズキ自動車のコスト競争力である。一方で、エレクトロニクス業界でいえば、アップルの商品開発力であり、サムソンの大規模投資によるコスト競争力ということになろう。
日本の国を例に取ると、今回の選挙の結果でも明らかなように、国として迷走しており、明らかにかつての勝ちパターンを失っている。
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