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寄り道できる紙媒体

ネットの光と陰

私がTVが好きでなく新聞が好きなわけは、新聞や雑誌はテレビと違って自分が読みたい記事だけ、あるいは好きな記事だけを選んで読めることである。それに対して、TVは基本的に受け身で情報を受け取らざるを得ず、ある部分をすっ飛ばしたり、ある部分を考えながら深く聞くといった見方はできない。要するに情報を一方的に与えられる受け身のメディアのTVと主体的に情報選択できる紙媒体の違いである。

こんな話を日経新聞の岩丸さんと議論しているときに、彼がおもしろいことを言っていた。「ネットに比べて、紙媒体の利点は寄り道ができることだ。すなわち新聞でも雑誌でも自分が興味ある記事の隣や次のページにある全く関係ない記事に寄り道することができるという意味だ。それによって、思わぬ発見や発想の広がりが生まれる。」
大いに頷ける話で、ネットではそうはいかない。もちろん、本文中にリンクが張ってあれば、簡単にその記事に飛ぶことができるが、これは当たり前であるがリンク先はは本文に関係のあるものに決まっている。
逆に言えば全く関係ない記事に飛ぶのは難しい。従来より、紙媒体はパラパラめくりができるのが優れていると言われているが、この寄り道というのはパラパラめくりともまた違う。隣にふと目が行ってしまう。興味が引き寄せられてしまうという現象だ。この「寄り道がしやすい、あるいは周り近所に目がいきやすいのが紙媒体の一つの特徴というのは間違いなさそうだ。

岩丸さんの話を聞いていて、自分も小さい頃百科事典を読んだり、地図帳を意味もなく読んでいたことを思い出した。調べるために百科事典を見るのではなく、適当なページを開いて読んでいくのである。あるいは、何か調べたついでに隣の項目が気になってそちらをつい読んでしまうのである。また、地図帳を眺めていると私の場合は想像力がどんどん膨らんでいく。

今日の結論
人間たまには寄り道をしないと、ものの見方や知識が偏ったり、貧相になるな。

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コメント

    • すいか
    • 2007年 9月 26日

    たしかに、ネットは興味のある情報、受容度の高い情報を集中的に収集するメディアであることは間違いありませんね(ネットではレレバントな情報が命)。これはネットの良さでもあり、制限でもあるわけですが、そういう意味で、マス媒体が持つような不特定多数へのブランディング効果が機能しづらいメディアとも言えます。
    今後、ネットでのブランディングは可能になるのでしょうか?言い換えれば、「寄り道」は可能になるのでしょうか?
    個人的には、リコメンデーションやソーシャルメディアサービスが、寄り道を「記事経由」ではなくて「人経由」で担保するようになるのではないかと思います。情報の本質はコミュニケーションです。ネットが持つコミュニケーションにおける革新性は、「新聞の記事を流し読みする」から、「面白いブログを書くあの人がリンクするこの人は面白いはず」という変化を起こしたことです(ネットは流し読みするには情報が膨大)。現在でも見られるこの感覚は、わりと「寄り道」に近い態度だと思うのですがどうでしょうか?
    ソーシャルブックマークのタギングやRSSで、もっとレレバントではない情報を「人経由」でうまいこと統合するようなサービスができたら、ブランディングという観点からもけっこう面白いと思います。先生のご意見を聞いてみたいです。

    • 内田和成
    • 2007年 9月 28日

    すいかさんへ
    おもしろい問題提起ですね。私も技術が進歩すればネットでも寄り道が出来るような気がします。あるいは既にあるタグの技術やRSSがその兆しかもしれません。ただし、それで紙媒体をすべてカバーできるようになるのかはまだよく分かりません。
    また、情報の本質の話も個人的には大好きなテーマです。私は情報の本質はコミュニケーションではないと思っていますので、そこは議論してみたいですね。
    じゃあ、なんだと思っているかと言えば、コミュニケーションでやりとりされるコンテンツが情報で、これはコミュニケーションをする人と人の間でどれだけ価値観が共有化されているかどうかで情報すなわちコンテンツの価値が変わってくると思ってます。要するに二人の間の共有度合いで情報量の少ないコンテンツになることもあれば、リッチなコンテンツに変わることもあるという考えです。
    是非またコメントください。

    • すいか
    • 2007年 11月 13日

    >>二人の間の共有度合いで情報量の少ないコンテンツになることもあれば、リッチなコンテンツに変わることもあるという考え
    Facebookが最近発表した"Social Ads"は、先生がおっしゃる文脈の中でも面白い手法ではないでしょうか。
    http://www.ideaxidea.com/archives/2007/11/facebooksocial_ads.html
    情報が共有されているからこそ、広告情報が関係性の中で特別な意味を持つ。言い換えればコンテンツになり得る。メッセージ受容者にとっては「A君が紹介している商品」というクチコミ的な認知、そして広告主からはクチコミ的な広告をある程度マス的に発信できる仕組みは、史上初めてではないでしょうか。

    • 内田和成
    • 2007年 11月 20日

    すいかさんへ
    FacebookのSocailAdsを見てみました。おもしろい仕組みですね。只、個人の履歴がここまで利用されると、映画のMinority Reportを見ているような気持ち悪さがありますね。
    情報がデジタル化されればされるほど、アナログ的な要素というか、行間を読むみたいなことの価値がますます高まるような気がします。

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