弁護士の中島茂先生お薦めの梯(かけはし)久美子さん著「散るぞ悲しき」をようやく読むことが出来た。中島先生がリーダーシップの鏡と言うだけあって、大変参考になる中身でした。
散るぞ悲しきは第二次世界大戦末期に硫黄島玉砕時の現地司令官だった栗林忠道中将の生き様と硫黄島玉砕の話を語ったノンフィクションだ。詳細は本書に譲るとして、いつものように私が気に入った部分だけを取り上げてみよう。
栗林中将は負けると分かっている硫黄島の戦いの中で、日本軍に共通の戦法「死を前提として一斉に突っ込んでいく突撃」を一切許さなかった。それは梯氏によると、「硫黄島における戦いの目的が一日でも長く持ちこたえて米軍の日本本土襲撃を遅らせることである」と栗林氏が理解していたせいだという。そうなると、一斉に突撃して死んでしまっては元も子もない、一日でも長く戦闘を続けさせるためには無駄に死んではならないという考え方だったという。要するにきわめて合理的な考えの基に戦略を構築し、それの実行を部下に強いたのだ。
さらに、島を守る陸軍の戦い方に対しても、従来の日本陸軍の水際で迎え撃つ作戦を否定し、島の奥に籠もって戦うゲリラ戦を主体とした。これも水際作戦は彼我の戦力差があまりないときに有効だが、圧倒的に戦力とりわけ火力で劣るときには却って早期全滅を招くという考え方から来ている。こうした従来と異なる戦略を考え出した背景には現場を詳細に観察し、現状分析の元に最も有効な戦略を考えるという合理性があったのだ。そのためには当時の大本営の大方針する否定して、自分の信念を貫いた。
それについて、梯氏は「観察するに細心で、実行するに大胆というのが栗林の本領である。彼はものごとを実に細かく"見る人"であった。定石や先例を鵜呑みにせず、現場に立って自分の目で確かめるという態度をつらぬいた。」と語る。
これはまさにクラウゼヴィッツの戦争論に通じる話だ。クラウゼヴィッツは戦争のリーダーは先見性、勇気に加えて、現場に通じていないといけないと言っている。
本当は負けると分かっている戦で部下を2万人も死なせることなく、全面降伏したかったのだろうなと思いつつ、本書を読み終えた。
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偶然読んでいる『部下を定時に帰す「仕事術」』
(佐々木常夫著)のp.181にも、「散るぞ悲しき」
が紹介されていました。おそらく、本blogを
読んでいなかったらスパークしなかったです。
私は記憶力が悪いので、このタイミングでなけ
れば気付かなかったと思います。
zuKaoさんへ
スパークしてもらったようでうれしいです。
今日の日経新聞にも中島先生が良いことを書いていました。