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筋の善し悪し(3)

コンサルタントをやっていて、困ってしまう依頼に「とても実現が不可能に思えるのだが、それを証明するのがきわめて困難な話を何とかして証明してくれ」と頼まれることがあります。
あるお客さんから、今うまくいっていない技術が本当に使い物になるかどうか見てくれと頼まれたことがあります。経営者は長年の経験で、どうも使い物にならないのではないかと疑っているが、技術担当役員が開発がもう少しのところまで来ているので、あと少しだけ待ってくれ、そうしたら必ず競争相手を凌駕する画期的な製品が生まれると主張し、経営者にはそれを違うと判断するだけの知見がない。さらに、今その開発を中止してしまえば、これまで投資してきた何百億円が無駄になる。それを聞くと、経営者も少しもったいない気がして、捨てきれない。

我々が、その技術担当役員から話を聞くと、彼曰く、まず今開発中の技術改良に成功すると市場に出したときに圧倒的な優位性を築ける。また、その技術を使った生産を行うためには、追加の設備投資が後100億円だけ必要で、これまで使った数百億円に比べれば微々たるものであう。さらに、現在当社予定した生産の歩留まりが半分に留まっている為に生産コストが当初予定の倍かかっているが、これは実際に生産を開始すれば、やがて経験と共に当初の歩留まりまで改善するはずである。これだけ聞いて、何となくうさんくさいと思った方は正解です。でも、これを証明するとなると難しいのです。

そこで我々は、成功するのかしないのかではなく、成功確率がどれくらいあるのか計算してみることにしました。技術役員曰く、技術改良に成功する可能性は3ヶ月以内は5%くらい、半年なら1/3,1年でやっと50%ということです。また設備投資はともかく、その後実際に操業を開始してからの歩留まり向上の可能性はせいぜい2-3割が限度であることも新たに判明しました。
この後の難しい分析は省略して、結論だけ言うと、今から100億円突っ込んでこの事業で利益が出る可能性は2~3%程度しかなく、最悪数百億円の赤字も出る可能性も含めて、平均期待収益は大きなマイナスであることが分かりました。もちろん、2~3%でも可能性があれば、それにかけるのも立派な経営判断ですが、この経営者の場合は、この結果を見てようやく撤退を決断しました。

以上は実際にあった話を少し脚色しましたが、当事者(この場合は技術担当役員)が出来ると信じていることを、それは筋が悪いと言って諦めさせるのは本当に難しいことです。
さだまさしの歌ではないですが、「筋が良いとか悪いとか、人は時々口にするけど、そういうことって確かにあると、あなたを見ててそう思う」と歌いたくなってしまうほど、筋がよいか悪いかですべての結果が大きく違ってしまうことがコンサルタントの世界では日常茶飯事です。念のため申し上げると、本当は筋ではなく、運が良いとか悪いとかです。

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コメント

    • 永井 文治
    • 2007年 2月 10日

    ご無沙汰しています。
    ブログ紹介のメールを有り難うございます。
    嶋口先生のお祝い会の件ですが、丁度3/17に海外出張の予定が入ってしまい、出席できず大変残念です。今回の出張は、経団連観光委員会のミッションでドバイ視察です。ドバイは行ったことありますか?
    今朝の日経新聞に経営者未来塾「異業種格闘技」が一面で載っていましたね(写真もなかなか良かったですよ)。実は当日、東商ホールに聞きに行きました。流石に大変面白く、参考になるとともに大いに刺激になりました。是非また会えるのを楽しみにしています。

    • 内田和成
    • 2007年 2月 10日

    永井さんへ
    コメントありがとうございます。
    ドバイには残念ながら行ったことがないです。ビジネスを見る上で行ってみたい国のベスト2に入ります。もう一カ国はブラジルです(BRICSで唯一行っていないので)。
    日経新聞の写真も褒めていただいてうれしく思います。写真くらいは若々しくいきたいものですが、こればかりは自分では判断つきかねます。

    • ti
    • 2007年 2月 15日

    内田さん、ブログ楽しみに拝見しております。
    中でも「筋のよしあし」は興味深く読ませていただきましたが、本稿末尾において「筋のよしあしは運のよしあしである」と書かれている部分が腑に落ちません。結局「経営は運次第」のようなことをおっしゃっているのではないと思うのですが・・・

    • 内田和成
    • 2007年 2月 16日

    tiさんへ
    末尾の「筋の善し悪しが本当は運の善し悪し」と言っているのは、さだまさしさんの歌の本当の歌詞が運だという意味です。
    私が勝手に替え歌にしてしまったので、それを言っておきたかっただけで、深い意味はありません。誤解を与えたようで済みません。

    • ti
    • 2007年 2月 16日

    内田さん、早速のお返事をありがとうございます。さだまさしさんの歌の歌詞を知らずにコメントしてしまいました。失礼しました。
    実は、個人的な経験から「最後は運か」と感じるようになってきたので反応してしまいました。

    • 内田和成
    • 2007年 2月 17日

    これも知り合いの方のコメントです。
    「筋の良し悪し」は大変参考になりました。投資や出資案件だけではなく、全てのビジネスにおいて、筋の良し悪しは、重要な判断ポイントとなります。とくに我が社の様な「プロジェクト型(注:内田書き直し)ビジネス」においては、受注時の判断のミスが大きな損失につながることが多く、どの様にしてプロジェクト案件の筋の良し悪しを見極めるのかは、当社の経営にとって、最重要課題であります。
    しかし内田さんも仰っておられるように、リスクを判っている現場は、やりたい一心でリスクに目が届かないし、判断する経営者は、現場から離れているので情報が不足し、プロジェクトのリスクを判らない。この様な状況では結局誰も「筋の良し悪し」を判断できず、そのままプロジェクトを進めることになってしまう事が多くなります。
    本当にどうしたら「筋の良し悪し」着手する前に判断できるのでしょうか。何か良い方法があったら教えて下さい。
    よろしくお願い申し上げます。

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