少し前にベストセラーになった小説、『チーム・バチスタの栄光』を読んだ。エンタテイメントととしては大変秀逸で、とてもおもしろく一気に読んでしまった。
現役の医師が書いたと言うだけあって、緊迫した手術場面、病院内の政治力学、医者と看護婦の関係などがなるほどとか、そうなんだという感じで、きわめて臨場感にあふれている。
それを読んでの感想が二つ。一つはコンサルタントのインタビュー技術に通じる話が後半に頻繁に出てくること。厚労省の役人で白鳥という嫌みなやつが繰り出す話法がおもしろい。攻めて攻めて相手のぼろを引き出す方法だ。時には返り血を浴びても構わないから突っ込む。一方で主人公の田口は聞き上手で相手が心開いて本音をしゃべってしまう。アクティブフェーズとか、パッシブフェーズとか、いろいろな言葉が出てくるが、その中身は特に若いコンサルタントにとって参考になるのではないかと思った。
もう一つはプロフェッショナルとは何かを感じさせる至極の言葉が随所に散りばめられていることだ。これもコンサルタントに通じるものがある。たとえば技師の羽場に対するインタビュー場面で、彼が「人工心肺のトラブルは大きく分けると二種類あります。-中略-。問題が起こればすぐに人目につきます。だから、目を離さずにいれば、トラブルはたいてい分かる。問題点が分かれば、復旧も簡単で、大事にも至りにくいんです。」と答える場面がある。それに対して主人公の田口がこう述べている。「俺は羽場の言葉を理解し、同時に羽場の実力も把握した。トラブル回避を簡単なことのように語っているが、その言葉は鵜呑みに出来ない。仕事を単純化して語れるのは、羽場が優秀だからだ。」うーん、気に入ったこの言葉。
他にも若い酒井医師より、少し技量不足に見える垣谷医師の方が優秀だと、チームリーダーの桐生が語る場面がある。「それは胆力です。トラブルや非常事態になったときにあらわになるものです。経験によって培われた度胸と言ってもいい。手術現場で何もしないでいると言うことには、度量が必要なのです。」
コンサルタントも全く同じだ。コンサルタントが顧客の一挙手一投足にに反応していると、全体が収まらないことがある。若いコンサルタントが陥りがちな罠だ、と言うより若いコンサルタントはそれでよいが、シニアはそうではいけないと言うべきか。
以前紹介したキャプテンの唇に通じるものがある。
同じ酒井と垣谷の比較に関して、主人公はこうも言っている。「桐生は二つのことを同時に言っている。一つは酒井の技量に対する評価は低いわけではないこと。そしてもう一つは、垣谷の技術が低いと繰り返すことで酒井は、自分が外科医として未熟だと言うことをさらけ出してしまっていると言うこと。言葉に出来ないものを感知する能力、それが器というものだ。」
これもコンサルタントをやっていると、見に見えないところで顧客に価値をつけられるのがシニアであり、それは若手からは見えにくいのだろうなと思うことが良くあるのに通じる。
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