BtoBブランディング
消費財のブランド戦略については何十年前から世界中の学者や実務家によって研究されてきている。また、一般ビジネスマンにとっても肌感覚で理解しやすい世界である。
ところが、産業財のブランディングとなると、そもそも産業財にブランドなんか不要ではないかとか、せいぜいリクルーティングに役立つだけではないかとか、どちらかというと積極的に支持する理由は少なかったのが現実であった。
ところがここ数年、産業財においてもブランディングという考え方を積極的に捉える動きが増えてきている。例えば、単なる知名度向上ではなく、営業活動にプラスになるとか、あるいは社内のいろいろな部門の意思統一、ひいては顧客から見たときのまとまった企業イメージにつながるなどの価値が評価され始めている。こうしたBtoBブランディングの意義と方法論についての画期的な入門書が日本経済新聞出版社から出版されたばかりの「コーポレートブランド格闘記」である。著者は神戸大学のマーケティング&ブランドの大家である石井淳蔵先生と、日本経済新聞社広告局の実務家横田浩一さんという異色の組み合わせである。
内容の一部を紹介すると、もちろんBtoBブランドの効用や方法論は語られているが、それ以上に私が重要だと思ったのが、BtoBブランドがなぜ必要になったかの件(くだり)である。著者によれば、①自社の業容・業態の広がりにより顧客とのコンタクト・ポイントが広がったこと、②自社内の業務をアウトソーシングや子会社化したことによりコントロールしにくくなっていること、③案件の大型化により顧客先での担当者や責任者が見えにくくなったことなど5点ほど上げられているが、そのどれもがなるほどという内容である。これ以外にもいろいろ参考になる点が多いが、これ以上書いてしまうと著者に怒られそうなので、興味がある方は是非実物をご覧ください。
実は、私もごく一部だけ、この中身に関わっている。というのも一昨年から昨年にかけて、日本経済新聞社と日経広告研究所の共催による「BtoBブランド研究会」に顔を出させていただいた。私自身は、あまり積極的に参加することが出来ず心残りであったが、座長の嶋口先生はもとより、数多くの学者・実務家が参加され、その成果をまとめ上げたのが石井淳蔵先生と日経新聞の横田さんというわけである。
通常であれば、報告書あるいはそれをベースにした学術的な書籍にするところを、石井先生と横田さんはあえて小説風にまとめたという大変な意欲作である。意欲作といったが、それは本の作り方に関してであって、中身については読み物風とはいえ、BtoBブランドの本質をきちんと押さえたすばらしい入門書になっている。
特に産業財のビジネスに何らかの形で関わっている方々、例えば部品・生産財メーカーの社員の方、あるいは生産財・サービスを企業の中で購買する立場の方、あるいは顧客に産業財企業を持つ方などに、広くお薦めである。
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BtoBブランディングについて大変興味深く拝読させて頂きました。消費財を扱う企業にとっては、製品ブランドの積み重ねがコーポレートブランドに貢献すると考えられますが、産業財企業にとってのブランディングは、将来のコアビジネスどこに置くかということと繋がるのではと感じています。現在ほとんどの企業がCSRとブランディングとの狭間で悩んでいるように感じられます。
義堂さんへ
コメントありがとうございます。
BtoBにおけるブランドとは、将来のコアビジネスの指針であるという考え方はおもしろいですね。インテルがPCの中心部品であるCPUについてロードマップという形でも項何年かかの製品・技術開発計画を示すのは、大変強力なブランドになっているなと思いました。